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『フリー』

『フリー』
クリス・アンダーセン(NHK出版)

前ブログとは脈絡がないのだが、クリス・アンダーセンの本をとりあげたい。あの『ロングテール』に続いて、今度はフリー(料金無料)について語るのが本書である。フリーを語るにふさわしい環境によって書かれているのも粋なはからいである。以下、冒頭より抜粋。

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 私は今、この原稿を250ドルのネットブック.コンピューターで書いている。それは機能が限定された小型軽量で安価なノートパソコンで、ノートパソコン市場で急成長している。私はウェブブラウザは無料のファイアフォックスしか使わないので、OSはなんでもいいのだが、たまたま無料のリナックスだ。ワープロはマイクロソフトのワードではなくて、無料のグーグル・ドキュメントを使っている。バックアップはグーグルにまかせられるし、どこにいても原稿が書けるというメリットがある。私がこのネットブックですることは、電子メールからツイッターまですべて無料だ。今いるコーヒーショップのおかげで、ワイアレス・アクセスまで無料になっている。
 グーグルはアメリカでもっとも儲かっている企業のひとつだし。リナックスの生態系は300億ドルだ。私が無料のワイアレス・アクセスにつられて利用しているこのコーヒーショップでは、3ドルのラテが飛ぶように売れている。
 ここに無料のパラドックスがある。料金をとらないことで、大金を稼いでいる人々がいるのだ。すべてとは言わなくても、多くのものがタダになっていて、無料か無料同然のものから一国規模の経済ができているのだ。それはどのようにして起こり、どこへ行こうとしているのだろうか。
 これが本書の中心となる疑問だ。
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本来であれば、このようなテーマについては経済学者によって説かれてしかるべきだが、ビッグバンのように膨張したフリー経済世界を眼前にして沈黙するしか術がないようだ。そこでクリス・アンダーセンが登場するわけである。

本書ではネット以前からあったフリー(無料サンプルの類いやラジオTV放送)が検証され、ネット以後のフリーと対比される。私にとって謎に満ちているのは、もちろんネット以後のフリー世界、すなわちグーグル、リナックス、ユーチューブ、ウィキペディアなどのモデルケースである。その謎が本書でひもとけるのだが、ハッキリ言って私には実感がつかめないでいる。現実が想像を超えてしまっている。

本書で個人的に共感を覚えたのは、無料のもののとなりにチップジャー(募金箱)を置いてはならない、という事例である。それにならって、私のブログには、アフィリエイトをはじめとする課金システムが皆無である(やり方がわからないし、たとえ設置したところで極端に訪問数が少ないので話にならないのだが…)。
アルファブロガーと称される方のブログのなかに、「この先は有料メルマガに」という仕掛けがあったりすると、何となく残念な気持ちになる。「続きはCMの後に」というテレビ番組と同じく、その瞬間に客は他チャンネルに移動するだけなのだ。

本書は情報量が多く、内容も考えさせられるものばかり。私のアタマではとても処理しきれない。そのためもう何度読み返したことだろう。そしてこれからも読み続けていくだろう。私なりにまた思いつくところができたら、本ブログで取り上げていきたい。
とにかく前著『ロングテール』とともに『フリー』を著したクリス・アンダーセンはスゴイ人だ。




『「空腹」が人を健康にする』

『「空腹」が人を健康にする』
南雲吉則(サンマーク出版)

東京新聞に本書の広告が大きく載っており、
「一日一食」で20歳若返る! 30万部突破!
という刺激的なキャッチに興味を持ち、書店にいくと平積みされていた。

以前、本ブログで『朝食をやめて健康になる』という本をとりあげた(私は30年以上も基本的に朝食をとっていない)。ところが本書では、朝食のみならず昼食もとらないで、「一日一食」の健康効果が説かれている。著者は医者であり、30代にメタボ体型がもたらす便秘症と不整脈に苦しまれた。さまざまな健康法を試行錯誤した結果、「一日一食」にたどり着いたとのこと。「一日一食」を実践して体重が一直線に減ったばかりか、肌も若返り、20歳若くみられるようになった。その証拠としてご本人の写真が帯紙にカラー印刷されているが、たしかに50歳半ばにはみえない。

本書によると、お腹がぐうっと鳴る「空腹」がとても大切であるらしい。生物が飢餓状態におかれたときに、生命維持をしようと活性化する「サーチュイン遺伝子」が発見された。その遺伝子を調べると、「人間の体内に存在している50兆の細胞の中にある遺伝子をすべてスキャンして、壊れたり傷ついたりしている遺伝子を修復してくる」ことが明らかになったたとのこと。つまり「空腹」が老化や病気をくい止めてくれるというわけである。

私はこの話にいたく納得できた。科学的に本当に確かなのかは、どうでもよくなるほどに、直感的に正しいと受けとめた。そもそも人が一日に三食も摂るようになったのは、人類17万年の歴史のなかでせいぜい100年にしか過ぎない。人類は「空腹」でいる状態が健全であるに違いなく、現在の食習慣が間違っているのだ。私は近年、お腹がぐうっと鳴る空腹を味わったことがない。12時前後になんとなく昼食をとっていたが、考えてみればお腹がぐうっと鳴っていないのであれば、昼食など必要なかったのである。

むかし山登りに熱中していた頃、登山中は昼食タイムなどなかったことが思い返された。行動食あるいはレーションといって、ポケットに入る量のビスケットやあめ玉を、小休止ごとに各自ほおばっていて、それで足りていたのである。岩登りの長いルートでは、緊張の連続でレーションも忘れてしまうほどであったが、それでも何ともなかった。

本書は、「一日一食」であれば何を食べてもOKという。そういうアバウトな基本姿勢に好感がもてる。とはいいながら、実践する上で大事なポイントが満載されていて、読むだけで楽しい。たとえば…
●危険が迫ると脳細胞まで活性化する
●野菜に捨てるところなどない
●動物が獲物に塩をふって食べない理由
●カルシウムは「歩いて」補う
●健康のためにスポーツはしない
●酒飲みに朗報?休肝日は必要ない
●花粉症には「口呼吸」が効く
●自然界の動物たちを見習う

「一日一食」、ああなんとシンプルで美しいフレーズだろう!
できる範囲で実践していきたい。
(と言いながら、これは難しい。どうしても間食してしまう)

こんなことを書いて、ランチミーティングのお誘いがなくなってしまうのも困るので、念のために言っておきます。
私は人と会う際、一期一会の精神からランチミーティングを大切にしております。夜の宴席もしかりです。どうかこれまで通り、お誘いください。私からもお誘いいたします。







『翻訳読本』

『翻訳読本』
別宮貞徳(講談社現代新書)

5月5日。祝!原発ゼロ稼働の日。

前ブログで、翻訳が「読み辛いことこの上ない」と書いたが、どうしても読み進めることができなかった第5章からランダムに一文ひろうと、
「人間が自由と善に対しての社会の自然な本能を抑圧されずに花開かせることができる、自由の領域のかすかな希望の光がほんの一瞬だけこれらの思想家には見えた」
こんな文章が延々と続くのである。

今回とりあげる『翻訳読本』はやや古い本で、初版は昭和54年。あまりにも面白く、ためになる本として手元にある。著者は上智大学教授にして翻訳家。翻訳とは意訳であると説かれる。当然のことながら、意訳とは、およその意味をくみとって見当で訳すことではなく、書き手のいわんとすることを正確に読みとって訳すことを云っている。そして読みやすい日本語であらねばならない。日本語に意訳する際の注意事項としては、
1.日常語を使おう
2.代名詞を削ろう
3.文法を忘れようー関係代名詞
4.名詞から動詞へ
5.修飾句は短くー逆行から順行へ

本書には悪い翻訳例として『不確実の時代』ガルブレイス著が何度か登場する。たとえば
「銀行とともに、少数の市民に与えられた貨幣創造の権力が生じた。この権力ゆえにこそ、銀行家は荘重さをよそおうのであろう。ある種の責任がそこにはあるのだ」
原文は
With banks came the the power, given to few private citizens, to create money. It may be why bankers are so solemn. A certain responsibility is involved.
これを筆者が訳すと…
「銀行といっしょに、ある種の権力も生まれました。ひとにぎりの民間人にだけ与えられた権力。それはおかねをつくりだす力です。道理で銀行家はもったいぶっているわけです。なにしろそれには責任というものがありますから」
名人の手にかかると、魔法のように普通の日本語に置き換えられる。

以前、やはり翻訳名人といわれる方からうかがった話だが、原文を辞書をひきながら逐語訳できる能力を1とすると、翻訳は100以上の力を要するとのこと。その1の能力も持ち合わせていない私にとって、雲をつかむような話であった。本書においても、“英語ができるから翻訳でも”というのは思い違いもはなはだしいと述べられている。

私はかねてより、うしろからひっくり返して解読することが腑に落ちなかったのだが、筆者はその問題に対して納得いく説明を与えてくれる。
「うしろからひっくりかえるのは、日本人が原文理解の上、便宜的にやっているだけのことで、イギリス人あるいはアメリカ人は(その他どこの国でも同じですが)、頭のなかであれこれひっくりかえしながら書いたりしゃべっったりしているわけではありません。やはりわれわれが日本語を使うばあいと同じく、頭に浮かぶままを文字にし、声に出しているのです」

『イエスとその弟子』ミルワードより
He paused at the entrance, with a feeling of unaccustomed heavinness at heart.
「かれは、今までに経験したことのないような重みを心に感じながら、入口で立ちどまった」
ほとんどの人は上のように訳すが、著者に手にかかると次のようになる。
「イエスは入口で立ちどまった。心が異様に重かった」

私は語学が苦手にもかかわらず、言語について書かれた本をときおり読む。面白い本が多いのだ。また機会があればとりあげたい。

『秘密の国 オフショア市場』

『秘密の国 オフショア市場』
ウィリアム・ブリテェィン-キャトリン(東洋経済新報社)

タックスヘイブンについて、もう1冊取り上げたい。とは言っても本書はオススメするものではなく、逆に「買うと損する」本としてである。本ブログは、取り上げないことで暗に批判をしめすスタンスで書いているが、たまには逸脱も許されると思う。なにしろ読者は10名に満たないようなので、安心して書けるのである。

本書を買った動機は、本の帯紙裏に記載された企業の名前。以下ひろうと、

【オフショアを利用している企業・組織】
IBM、アップル、アルカイダ(ビン・ラディン)、ウォルマート、HSBC、エクソン・モービル、LTCM、エンロン、オリガーギー(ロシア新興財閥)、CIBC、JPモルガン、シェブロン、シティグループ、GE、GM、タイコ、ダウ・ケミカル、バークレイズ銀行、パルマラット、BNY、BCCI銀行、BP、フォード・モーター、ミッタル・スチール、ワールド・コム…。

これらの企業について、具体的な記述があるものと期待したのだが、ほとんど何も得られなかった。私はアップルのコンピューターを使っているので、アップルに言及したところをさがすと、

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〜アイルランドにある製造会社アップル・コンピューター・リミテッド、その会社が保有するアイルランドのアップル・コンピューター・インコーポレーション・リミテッド、オフショアの投資会社であるアップル・ネザーランドBV、海外市場への製品販売のためにアメリカ領ヴァージン諸島に設立したアップル・コンピューター・フォーリン・セールス・コーポレーション、ケイマンの投資会社であるアップル・コンピューター・ケイマン・ファイナンス・リミテッド、そしてアップル・コンピューター・インターナショナル・リミテッドがある。この最後の会社について、アップルはかつて、「この会社は1981年に3月24日にケイマンで法人格を取得した。この会社の機能はシンガポールでの生産を管轄することである」と説明していた。
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このあと、国境をまたがったアップル子会社間で租税回避がおこなわれ、アメリカで裁判がおこされるが、「この裁判は結局和解になったため、アップルの正確なスキームは不透明なままである」でオシマイ。拍子抜けしまった。この「不透明」にどこまでメスを入れられるか、著書としての真価はここからはじまってしかるべき。にもかかわらず本書はすべてこの調子で、次のトピックスに移っていく。その結果、読むにつれ、次から次へと消化不良物を貯め込むばかり。これでは読まない方が健康によろしい。

著者プロフィルは、
BBCのプロデューサー兼企業調査会社クロール・アソシエイツの調査員。「湾岸戦争後のサダム・フセインの資金の流れ」「旧ソ連崩壊後の資金の流れ」「アルカイダ・マネー」などの調査に携わる。現在ロンドン在住。
とのこと、これ以外の記載ななし。本書には脚注や参考文献もない。
本書は監訳者ふくめて4名で共訳されているが、読み辛いことこの上ない(4名のうち3名の翻訳歴は共訳ばかりで1名は翻訳歴なし)。さらに監訳者あとがきがヒドイ。ひょっとすると、監訳者は原書をほとんど読んでいない(あるいは読解できていない)かもしれない。読後スグに捨てるつもりだったが、これほどヒドイあとがきは希少価値があり、しばらく保管することにした。

「買うと損する」情報としてお役に立ちますように…。


『タックスヘイブン』

『タックスヘイブン』
クリスチアン・シャヴァニュー&ロナン・ハラン(作品社)

前ブログ『タックスヘイブンの闇』ニコラス・ジャクソンが、あまりにも面白かったので、関連書籍をジュンク堂でいくつか買い求めてみた。タックスヘイブンについて基本知識がないところで、いきなりコアな前書を読んでしまったので、初心者にも俯瞰できる本として本書が役立った。参考文献一覧も充実している。

訳者あとがきによると、タックスヘイブンに関する海外図書の多くは利用者向けの節税ハウツーものであったり、実用的専門書であるとのこと。他には、スイスの銀行の秘密であるとかマフィアのマネーロンダリングにスポットをあてた本など。以下、引用…

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 そんな折りに見つけたのが本書である。原著は小著ながら、タックスヘイブンの歴史と現状、とりわけタックスヘイブンがグローバル経済のなかで占める決定的な役割を鮮明に描き出した、日本のみならず欧米でもほとんど類書のな性質の本であると判断し、訳出することにした次第である。
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とあるように、本書はタックスヘイブンを不当な制度として批判・解消しようとするスタンスで書かれている。本書の章立ては次のとおり…
 第1章 グローバルケーザイにおけるタックスヘイブン
 第2章 タックスヘイブンの歴史
 第3章 タックスヘイブンでは、誰が何をやっているか
 第4章 タックスヘイブンへの対抗策
この第4章が本書のスタンスを特徴付けている。項目をあげていくと、
 1.公的規制の歴史 
 2.ヨーロッパであがった烽火
 3.国際銀行による自己規制
 4.市民社会からの圧力
となっており、タックスヘイブンが時々の対抗の歴史を経て手のつけられないモンスターと化していったかがわかるのである。結局は「市民社会からの圧力」を高めていくしか策がないことが示唆されている。以下、本書締めの言葉を載せる。

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 こうした市民社会による圧力は、さまざまな社会運動が足並みをそろえたとき、さらに効果的なものになるのだろうが、まさそこまでの動きはないように思われる。「世界社会フォーラム」によって世界の市民・民衆・労働者の団体が出会うことによって、活動家の国際ネットワークが広がっているが、その一方で、この問題に帯するアプローチの違いも浮き立ってきている。タックスヘイブンを利用している私的アクターに帯する正面攻撃しか考えていない。そして、社会的責任を自覚した投資、企業の社会的責任、タックスヘイブンの活動の規制などによって道徳化された一種の「別の資本主義」をめざす者を、妥協として避難する者もいる。
 いずれにせよ、この問題への取り組みは、国境を超えたかたちで行わなわれるのが望ましい。なぜなら、これに関係する企業と同じ国際的な行動に身を置かなければならないからである。そうしてこそ、効果的な活動を行う機会が増えていくことになるだろう。
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もしもタックスヘイブンに興味を持たれたら、本書を先に読むことをおすすめする。などと言いながら、あるときに私が突然大金持ちになって、租税回避目的でタックスヘイブンの実用専門書を買いあさることになるかもしれないが…。